「Arc Jihad(アークジハード)-歌う剣-」

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  Arc Jihad(アークジハード)-歌う剣-

男女比率:410
時間目安:15分

台詞数

40 ♀ティルダ  21歳。ウッフェの契約者。
         おとなしい性格だったが恋人が失踪したストレスと
         魔剣の契約者となったことで
         苛烈な言動をするようになっている。

─  ウッフェ  台詞なし。歌う魔剣スクレップの担い手。
         沈黙の王子。

34 ♂ロラン   17歳。チュルパンの契約者。
         元チンピラでバイク好きの走り屋。
         好戦的で血を見るのが好き。

27 ♂チュルパン 39歳。聖剣アルマスの担い手。
         異教徒を人間と思わない差別主義者。
         聖剣、魔剣問わずすべての異教徒を滅ぼそうとしている。
         シャルルマーニュ配下の大司教で武将でもあった。
         慇懃無礼。

34 ♂ルーカス  25歳。ポセイドンの契約者。
         聖遺物を探索する組織ミスティオンのギリシャ支部所属。
         支部長の補佐をしていた。漁師の息子。
         セレスを慕っている。

32 ♂ポセイドン 28歳。神槍トライデントの担い手。
         海の神。豪快だが狡猾で残虐。


役表

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ポセイドン:近いな。だが気配はふたつ。

ルーカス:ふたつ……聖剣ですか?

ポセイドン:聖剣と魔剣。
      どちらも回収したいところだ。

ルーカス:……あなたという存在がどういうものなのか、
     私にはいまだに理解しがたいのですが……。

ポセイドン:細かいことを気にしても仕方あるまい。
      お前には目的があるのだろう?

ルーカス:……そうでした。
     私は、セレスさんを……。

ポセイドン:助けたい。

ルーカス:……聞くところによると彼女は聖剣陣営に騙され、
     利用されている。
     彼女を助けるためには……。

ポセイドン:俺に協力すればいい。
      その見返りに俺は力をやろう。

ルーカス:そうだ……どれだけの血を流そうとも……私は……。

ポセイドンM:ククク……そうだ。そうして俺を頼れ。
       その女を手に入れたいのなら。
       浅ましい欲望がある限り、お前は俺の手駒だ。
       そして手駒は、多い方がいい。


  *人気のない海岸沿い*

ロラン:姉ちゃん、あんた俺が聖剣の契約者だって知って
    ケンカ売ってんだよな?

ティルダ:剣を構えなさい。
     私はお喋りをしにきたわけではない。

チュルパン:そっちの無愛想が担い手ですね。
      どうしたのです?
      何か言ったらどうなのですか?

ティルダ:沈黙の王子の声をお前たちが聞くこともない。
     さあ、剣を抜け!

チュルパン:そういう貴女も抜いていないではありませんか。
      あぁ、そうですか。
      異教徒である貴女たちはアルマスに斬られに来たのですか。

ティルダ:警告はした。
     ……はっ!

ロラン:っとお!
    ……ああ?

チュルパン:何とまあ、これほど錆びた剣もそうそうお目にかかれませんな。

ロラン:ダアハハハハ!
    笑わせてくれるじゃんか姉ちゃん!
    そんなナマクラ振り回しちゃってよぉ!
    よけて損しちまったぜ!

ティルダ:そう思うなら斬られてくれないか?
     たっ!

ロラン:フン!
    ああ悪りぃ悪りぃ、あんまり見え見えなんでまたよけちまった。

チュルパン:……この音は……

ティルダ:まだまだっ!

ロラン:よっと。なあチュルパン、そろそろ剣を出してくれ。
    キメちまおうぜ、大したことねえやこいつ。

チュルパン:──現れよ、異教徒を裂く氷の剣……アルマス!

ティルダ:死ねっ!

ロラン:おっと!
    だーかーら、不意をついたところでお前じゃ斬れねえってんだよ!

チュルパン:ロラン、何か妙です。
      聞こえませんか?

ロラン:あ? ……あぁ、音だろ?
    姉ちゃん、あんた戦うのにBGM流すのか?

ティルダ:スクレップが歌う。
     お前たちへの……葬送曲を!

ロラン:へっ! お返しっ!

ティルダ:ぐっ!?

チュルパン:<ピニションポルパヤン>
      どうです? アルマスの刃は異教徒の魂を削るのですよ。

ティルダ:……大げさな。
     少し疲れる程度だ。

ロラン:その割にはフラフラしてんじゃねえか。
    強がってられるのも今のうちだぜぇ?
    鉄を切る剣だ。ボロボロに錆びたその剣じゃあ……

チュルパン:受けることもできないでしょう?

ロラン:そういう、ことぉっ!

ティルダ:ふっ!

ロラン:もひとつ、だりゃあ!

ティルダ:せい!

ロラン:があっ!! ……何だと!?

チュルパン:あ、アルマスを両断した!?

ティルダ:もう遅い。
     お前の肉体はスクレップの歌で縛られている。
     それから……皮肉だな。
     スクレップも切れ味で知れた剣だ。

チュルパン:錆びたままで……!

ティルダ:これで、終わり!

チュルパン:おっと!

ロラン:ぐぇっ!?

ティルダ:ちっ!

ロラン:痛ってぇな、(えり)を引っ張るな!
    服が伸びんだろ!

チュルパン:助けたのですから文句はないでしょう。
      さて、手を抜ける相手ではないと分かりましたからね、
      私も共に戦うことにしましょう。

ロラン:ああん? ……憑依するやつか?
    あんまりやりたくねえんだけどなぁ。

チュルパン:状況が状況ですよ。
      負荷が大きいなどと言ってはいられないでしょう。

ロラン:しゃあねえ。やるか。マージ──

チュルパン:ウェイク!
      我が力、汝と共に。

ティルダ:ウッフェ、力を貸して。マージ・ウェイク!

ロラン:それにしても……フェイントか?
    わざとぬるい動きしてやがったな、

ティルダ:布石と言うのだ。覚えておけ。
     もっとも覚えても活かす機会はないが、なっ!

ロラン:ふんっ! くくく、今度は受けたぜ。

チュルパン:やはり、アルマスのコピーは斬ることができても、
      レプリカは斬れませんね。

ティルダ:それがどうした!
     まだ終わりでは、ない!

ルーカス:よっと!

  唐突に現れたルーカス、背後からティルダの腕を掴む

ティルダ:ぐっ! 増援かっ!?

ポセイドン:いいや、そういうわけでもない。

ティルダ:くそ! 離せ!

ルーカス:おっと。あんまり暴れないでください。

ロラン:てめえは何モンだ?

チュルパン:そちらも担い手……いや、マージ・ウェイクした契約者ですか。
      興をそぐようなことをしないでください。
      もう少しでその女を輪切りにできましたのに。

ポセイドン:くくくく……評価してやろう。お前たちは強い。
      使える程度にはな。

ロラン:ああ? めんどくせえ、まとめてぶった斬るっ!

ルーカス:ふっ! させません。

  ルーカスは矛でチュルパンの剣戟を受ける。

チュルパン:……その矛は……。

ポセイドン:トライデントだ。

ルーカス:海神ポセイドンの矛と言えば分かりますか?

ティルダ:離せと言っ!? ……ぐあっ!

ルーカス:女性は殴りません。

ロラン:殴るより乱暴にぶん投げてんじゃねーか!

チュルパン:いけませんねえ。女性には優しくしなくては。

ロラン:そーそ−。突くだけにしといてやれよぉ。

ポセイドン:威勢がいいな。
      そんなに暴れたいなら少し遊んでやろう。
      <風よ、荒れ狂いて障壁となれ
      ──エレジョーニテンペスタ!>
      ……来い。

ティルダ:暴風の結界に閉じ込めた?
     ……逃がさないとでも言いたいのか?

ルーカス:やはり、穏便にはすみませんか……。

ポセイドン:ルーカス、お前は話し合いですむなどと、
      本気で思っていたのか?

チュルパン:異教徒の話を聞くのは改心した時だけで充分です。
      主の御心(みこころ)が分からぬなら死になさい。

ロラン:どうでもいいから死ねよオラっ!

ルーカス:よっ!

ロラン:げほっ!? かはっ、ごほっ!
    ……くっそ、馬鹿力が……!!

ティルダ:剣よ歌え……はぁ!

ルーカス:ふ、そこ!

ティルダ:ぐあっ!

ポセイドン:そこそこ動けるが、未熟だな。

チュルパン:……矛を使いながら、なぜ刺すことをしないのですか?

ルーカス:それは、手加減できるだけの余裕があるのと……

ポセイドン:殺すつもりがないからだ。

ティルダ:殺さないだと? ……舐めるな!
     <乱舞せよ、音の刃──ラーマ・デル・スォーノ!>

ルーカス:がっ!?

ポセイドン:ほう……不可視(ふかし)の攻撃とは、面白い隠し芸だな。

ティルダ:音の刃は見えない。
     見えないものはよけられないでしょう?

ポセイドン:ふん。それはどうかな?

チュルパン:体術と膂力(りょりょく)が抜きん出ているならば、
      近づかなければよいのですよ。

ロラン:<冷気をもって剣身(けんしん)となす──レンドグラス!>
    おりゃっ!

ルーカス:ぬうっ! 長大な氷の剣を作るとは……。

ロラン:ちっ、もう一度!

ポセイドン:なるほど……

ルーカス:距離を空ければ勝てると、そう思いましたか。

ポセイドン:その発想にはふたつばかり、問題があるな。

ルーカス:その一。
     <気まぐれなる風よ、我が意に従え──カテギーダ!>

ロラン:がはぁ!

ポセイドン:突風。離れていても攻撃はできる。

ルーカス:その二。ふっ!

ティルダ:なっ!?

ポセイドン:近づくのもたやすい。

ロラン:レンドグラス!

ルーカス:おっと。

チュルパン:分かりました。力は認めましょう。
      認める故に……先に葬るのはあなたにします!

ティルダ:<ラーマ・デル・スォーノ!>

ルーカス:はぁ!

ロラン:ごふっ!

ポセイドン:音の刃があると分かっていれば
      予備動作を見てよけることは容易(たやす)い。

ルーカス:ついでに殴ることもね。

ポセイドン:そろそろいいだろう。
      <荒ぶる波よ、我が招きに応じて来たれ
      ──アポートメスキーマ!>

ティルダ:な……うわあああ!

ロラン:ぐああぁぁ!?

ルーカス:波の召喚。
     全身を濡らしてしまえばこの暴風結界の中では……

ポセイドン:冷たかろう?
      力が奪われるぞ。動きも鈍る。そこを──

ルーカス:ぬん!

ロラン:うがっ!

ルーカス:そろそろ理解してください。
     話し合いましょうよ。

チュルパン:くっ……何を話すと言うのですか……?

ポセイドン:お前たちの「望み」だよ。

ティルダ:……望み?

ルーカス:あなた方は何のために戦っているのですか?
     我々はそれに協力したいのですよ。
     できることなら、ね。

ロラン:くそ、限界だ! チュルパン!

チュルパン:マージ・ウェイク解除。

ティルダ:……あなたはミスティオンの関係者?

ルーカス:はい。ギリシャ支部長の補佐をしております。

ポセイドン:支部長は適合者ではなかったからな。
      その補佐だった適合者のルーカスと契約を結んだ。

ルーカス:とはいえ、私にも発言権はあります。
     必要ならば組織の力も使えますよ。

ティルダ:……マージ・ウェイク解除。

ポセイドン:話す気になったか。

ティルダ:リキャルド・ブリクセンの名前に覚えは?

ルーカス:残念ながら、知りません。

ティルダ:探しているの。
     ミスティオンのデンマーク支部に在籍していた研究者。

ポセイドン:失踪でもしたのか?

ティルダ:ええ。それが先月。
     デンマーク支部で虐殺事件があった日……。

ルーカス:……伝え聞いています。
     深夜から明け方の間に事件があり、十二名の犠牲者が出たと。

ティルダ:私が知らされたのは朝になってからだった。
     彼もその夜は支部にいたはず……けど、死体はなかった。
     跡形もなく消えてしまった。

ルーカス:監視カメラにも怪しいものは映っていなかったのでしたね。
     掃除でもしたかのように手がかりが少ない事件で、
     残されていたのは死体と血のりだけだったと報告にありました。

ティルダ:支部に訴えても話すらろくに聞いてもらえなかった。
     私がウッフェと巡り合ったのは月が代わってから。
     ……私の悔しさは分からないでしょう。
     ウッフェなら、死体から話を聞くこともできたのに……。
     でも、彼を探す手段ができた。そうする決意をした。

ポセイドン:殺した後で死体に聞く、か。
      くくっ! いい狂い方だ。

ルーカス:ブリクセン氏が契約者になったにせよ、そうでないにせよ、
     足取りをたどるのに私のサポートは無駄にはならないでしょう。

ティルダ:……信用していいの?

ポセイドン:したければしろ。したくなければするな。
      信用できなくなったら消えるなり殺すなりすればよかろう。

ロラン:くだらねえな。俺は手伝いなんかいらねえ。
    そのアマを殺してえってのが望みだ!

チュルパン:ロラン! ここは一旦引きましょう。

ポセイドン:ルーカス。

ルーカス:せい!

ロラン:ぐっ!?

チュルパン:ロラン!? くっ、卑劣な真似を……

ポセイドン:担い手は、よい。

チュルパン:あ……。

ティルダM:な、何をした……トライデントで触れたのか?
      その瞬間にあの担い手の目から意思の色が消えた……。

ルーカス:あなたにも、ほら。

  ルーカスのトライデントがティルダの肩に触れる。
  同時に、ウッフェの肩にもポセイドンのトライデントが触れていた。

ティルダ:え? あ……。

ポセイドン:……それでいい。
      お前たちはこれより俺の指揮下に入れ。
      海神の兵士として迎え入れよう。
      存分に働くがいい。

ティルダM:意識が薄れていく……そして、予感がある……
      次に意識が戻ったときには、私はもう、私では……。

ポセイドン:トライデントは心を鼓舞する。
      すなわち精神作用。
      熱狂とともに俺への忠誠を植えつけた。
      死ぬまでお前たちは俺のものだ。
      この世界を手にするのは俺だ。
      くくくく……はははははははは!!!


  劇終


こちらの台本は
コンピレーション企画「Arc Jihad(アークジハード)」にて
書かせて頂いたものです。
他の参加者様の台本はこちらへ。

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