back「Arc Jihad(アークジハード)-逃走の果て-」 男女比率:320 時間目安:23分 台詞数 ↓ 55♀舞花(まいか) 18歳。大学浪人。活発だが怖がり。 ごく普通の女の子。 58♀バアル 25歳。スレンダーな美女。嵐の神。 聖武器「アイムール」の 32♂老李(ろうり) 70歳。中肉中背。 黒のスーツと帽子。 32♂余化(よか) 22歳。目付きの悪い青年。仙人。 魔刀「 26♂ミスター 23歳。サングラスをかけた細身の青年。 黒塗りの高級車を部下に運転させている。 謎の人。 役表 *土手に座り込んでいる老人の携帯が着信を告げる* ミスター:お待たせしました、 アイムールの足取りが掴めましたよ。 老李:まことに待ちくたびれた。 あの逃げ足ではもはや見つからぬかと思うたぞ。 ミスター:私も驚きましたよ。 ですが、彼らの目的を考えれば不自然でもありませんね。 新たな わけですから。 老李:そうよな。 ミスター:後はお願いしますよ、 老李:ろうり。 ミスター:……はい? 老李:真似たところで中国語の発音にはならぬ。 故に、ろうりでよい。 ミスター:そうですか……それは失礼、 ターゲットの位置は端末にお送りいたします。 良い報告を期待していますよ。 *舞花のアパート。舞花は音楽を流しながら昼食を作っている* 舞花:ん〜、牛乳はこれくらいでよかったのかな? ……よし、これをケチャップライスに乗せ……て、 ホワイトソースを注げば……うん! 舞花流・ホワイトソースのオムライス、できあがり〜! 先輩、食べてみてください! ……どうですか? (もぐ)……うん、おいしいよ舞花ちゃん。 僕の好きな料理、覚えていてくれたんだね。嬉しいな。 ……なーんて、なったらいいな〜♪ *チャイムが鳴る* 舞花:あ、はーい! ……えっと、どなたでしょう? バアル:こんにちは! 交通安全についてのアンケートにご協力いただきたくて 伺いました。 少しだけお時間いただけますか? 舞花M:綺麗な人だなぁ……プラチナブロンド? 外国人なのかな……。 バアル:あのぉ……。 舞花:あ、ごめんなさい! アンケートですか? どのくらい時間かかりますか? バアル:はい。 項目は五個しかありませんし、そんなにかからないと思います。 舞花:それくらいなら。 バアル:じゃあ、この紙にお願いします。 あと、ご迷惑でなければ下にお名前をお願いします。 舞花:はい。んーと……うん……うん……よし。 で、サインですね? バアル:ありがとうございます。 じゃあ、二枚目の紙をめくって、読んでいただけますか? あ、ごめんなさい、その前にちょっとこれ持ってもらえますか? ……いでよ、逆らうものアイムール! 舞花:え? はぁ…… 何ですかこれ……魔法少女のステッキにしてはごついですよね? 鉄……? バアル:ああ、気にしないでください。それよりも、読んでください。 舞花:はぁ……ええと、わたしはアイムールの 戦うことを誓いま……す? ……何これ? バアル:我が名は 汝と契約し共に戦うことを誓おう。 うむ、コントラクト成立なり! 舞花:こ、コントラクトってなんですか? バアル:ああ。今この世界は狙われておる。 世界を守るためには敵を 舞花:……こ、この人、頭だいじょうぶかな…… 余化:こちらの世界の人間に偽装したとて、逃げきれると思うてか。 浅はかなり、嵐の神バアル! バアル:さて、さっそく 老李:また逃げを選ぶか? お主のような気弱な 舞花:あ、あの、何がどうなって…… バアル:もたもたするでない。逃げるぞ。部屋へ入れ! 舞花:逃げるのに部屋に? って、待って引っ張らないで! バアル:奥の窓をこうして! *アイムールでサッシの窓ガラスを割るバアル* バアル:逃げ道を確保じゃ。 舞花:ちょおおおおっとおおおお!? あああどうしよう バアル:一階だったのは 死ぬよりはよかろ? 舞花:し、死ぬぅ!? バアル:あの 舞花:刀!? 嘘でしょ…… *アイムールで道路とアパートを隔てていた壁も粉砕するバアル* バアル:逃げねば死ぬる。分かるかえ? 舞花:分かったから! *そのまま逃げ出すふたり* 余化:またも逃げおったな……。 老李:今回はミスターの監視もある。 慌てることはない。 余化:俺は待つのが嫌いだ。追うぞ。 老李:ここまで歩いた疲れもある。しばし休もうぞ。 余化:ええい、面倒な 老李: 余化:兵は 老李: 余化:どうでもよいわ。俺は戦いを長引かせるのは好かぬ。 老李: ゆるりと追う方がよい。 余化: *公園の水飲み場* バアル:息が上がっておるぞ。 アイムールを持つことでそなたの身体能力は大幅に 強化されておるのだがの。 にも関わらずこうまで疲れるとは、鍛え方が足りぬのではないか? ……水でも飲め。 舞花:ぜぇ、ぜぇ……どうせ……飲むな、ら……お茶……がいい……。 バアル: おとなしくそこにおれよ。 舞花:言われ……なくても……動け……ないって……。 強化って、そもそもこれ、重いよ……。 ……ひゃっ! *バチッという弾けるような音。 いくつものペットボトルや缶を抱えて戻るバアル* バアル:……ほれ、たんと持ってきた。飲むがよいぞ。 舞花:今の音、あなたですか!? 何したんですか? バアル:ん? ジハンキとやらを使っただけじゃが。 こうたくさん抱えておると腕も乳も冷えてしまう。 舞花:絶対お金使ってないよね!? 販売機を壊してジュースとか出させちゃったの? うう、やめてよ信じらんない……。 バアル: 舞花:こちらの世界って、何? バアル:うむ。 舞花M:いかい……この人、美人だけどやばい……やだ聞きたくない…… バアル: ともかく、この世界は 舞花:狙われてって……世界征服とか? バアル:うむ。飲み込みが早くて助かる。 そなたが戦うのも、この世界を守るため。 舞花:うーん……確かにファンタジー設定の漫画とか好きだけど…… あ、質問です、先生。 バアル: バルちゃん♪ と呼ぶがよい。 舞花:バアルさん、そこには素敵な男性との甘い恋はありますか? バアル:先ほど襲撃してきたあのふたりはな…… 舞花M:華麗にスルーされたー。 バアル: そなたが斬られてしまえばかすり傷でも救うすべはない。 舞花:猛毒!? バアル:うむ。 舞花よ、そなたはアイムールであの老人と打ち合えるかえ? 舞花:打ち合うって、無理無理! こんな重い物、振り回せるわけないでしょ! バアル:うむ。体が振り回されるのが落ちであろ。 されば…… *バアルは舞花に耳打ちする* 舞花:うん……うんうん……え? それ、ホントに大丈夫なの!? バアル: 舞花:いや、聞いたことないんだけど……。 バアル:ウガリット神話を知らぬかえ? 舞花:全然。 バアル:むう……聖書にも名はあるが、あっちは 悪魔呼ばわりだしのう……。 舞花M:悪魔……。やっぱこの人怖い……もうやだぁ……。 バアル:舞花、来た。逃げるぞ。 舞花:もう!? 老李:逃げきることは不可能。 余化:どう バアル:よぼよぼ ほーれこっちじゃこっちじゃ! 舞花:何で挑発してんのー!? 逃げるんでしょ!? バアル:うむ。ではまたの! *黒塗りの高級車、後部座席のミスター。携帯を操作する* ミスター: また逃げられてしまったではありませんか。 老李:お主か。仕方なかろう。 あの小娘もなかなかに逃げ足が速い。 余化:む? またミスターから連絡か? おい、聞いているか? お前に指図されるまでもなく、始末はつける。 黙って見ておれ。 ミスター:頼もしいお言葉ですが、手際が悪過ぎはしませんか? おふたりとも。 老李:急ぐ必要でもあるのか? 我らは 余化:なんだ? めんどくさくでもなったか? ミスター: 彼女は──バアルは何を意図しているのか、 今ひとつ 余化:時間稼ぎの悪あがきよ。 少しでも長く生き延びようという あわよくば逃げ切る、そんなところではないか? 老李:前の契約者のときもそうであったな。 ただの臆病者と見てよかろうぞ。 ミスター:まあ、結局は契約者が死に、バアルだけ実体を失った状態で 逃げましたからね……。 余化:……確かに だがそれがどうしたというのだ? 負けはしたが、運良く逃げることはできた。 それだけではないか。 ミスター:どうも気になるのですがねえ……。 何か、狙っているのではないかと。 老李: どんなに逃げたところで、いずれ飛び込むは袋小路。 ミスター:追い込まれたねずみは何をするか、分からないものですよ? 余化:相手が槍ならば慎重にもなろうが……。 ミスター:槍ですか? 余化: だがあのアイムールは ミスター:確かに、リーチは短いですね。 余化: 分かるか? ミスター:その優位が揺るがないことを願いますよ。 ……部下から報告がありました。 彼女らが向かっている方向には川と橋があります。 河原には降りられるので…… 老李:ふむ。橋の下にでも身を隠すつもりか。 ミスター:でしょうね。バレているとも知らずに。ふふ……。 余化:ならば、疲れたところを狙おう。 死を覚悟する ミスター:私も見物させてもらいましょう。 楽しませてくださいね。 *河原* バアル:だらしないぞ、舞花。 少し走った程度でそのように息を切らしおって。 舞花:はぁ、はぁ……これ、でも……高校、では、長距離、 やって、たんだ、から、ね…… バアル: 先の透明な水筒がまだあるぞ。飲むか? ……いらぬかえ。返事もできぬようじゃのう。 ……舞花よ、来たぞ。隠そうとしておるが 舞花:嘘……無理だよ、もう走れない……。 バアル:弱気になるでない。 余化:嵐とは災難よな。 理不尽に現れては破壊の限りを尽くし、去ってゆく。 老李:今に至っては儂らの方が嵐か。 舞花:あああ、近寄らないで! ミスターM:現代人のお嬢さんの方に逃げる体力がない。 今度こそ決着はつきそうですね。 バアル: 来るが良い、まとめて相手をしてくれようぞ! 老李:ならば……ふた手に別れてしまおうか? 余化:なるほど…… バアル:……ふん、 余化:なれば、手が空いた俺が小娘を追えばよいな。 舞花:嫌ぁっ! バアル:舞花!? 離れるでない! ミスターM:おや。恐怖心に負けて逃げてしまいましたか。 まあ、そんなものでしょう。 老李:予想外であったか? バアル:……ふん。 余化: バアル:くっ! 余化:俺の そんな余裕があるとでも? 老李:そうして 儂は娘を殺してくる。 バアル: 余化:ぐっ! バアル:動きを鈍らせれば 余化:させぬ! バアル:っとぉ!? 余化:俺は仙人でな…… せぇい! バアル:くっ! 余化:くく……今日は逃さぬぞ。 せいぜい楽しませてくれよ。 バアル:舞花が斬られる前に貴様を倒す! はっ! 余化:ぬるい! バアル:ヤグルシ! 余化:がっ!? バアル:これでっ! 余化: バアル:消えた!? 余化:背を バアル:ぬん! 余化:ちっ…… *逃げ出した舞花、河原で老李に追われている* 老李:この 舞花:足速い……お爺さんやめて! 殺し合いなんてする必要ないでしょ? 老李:必要ないとな。 舞花:ないでしょ! 普通じゃないよ! 人が人を殺していいわけなんかない! 老李:……では、なぜ儂の娘は殺された? 舞花:え……? 老李:娘らはなぜに殺されたのだ? 人を殺すのはよくないのであろう? 儂の娘は、孫たちは、人でなかったとでも言うのか? 舞花:それは……そうじゃなくて…… 老李:お主……舞花と言ったか。 間違っているのは世界の方ではないか? 世界が間違っておるから、正しいも悪いも歪んでしまっておる。 違うか? 舞花:確かに世の中は間違いだらけかもしれない……。 お爺さんの家族が死んでしまったのも悲しいことだけど…… 老李:ならば、儂が望むのは世界を変えること。 それが異世界の者たちによる統治であろうと構わぬ。 変える力があるのなら。 奴らもまた道を そのときはまた壊せば良い。 舞花:そんな……やだ、近づかないで! やめて……ああああ!!! *舞花は手に持っていたアイムールを投げつけるが、刀で防がれる* 老李:むっ!? ミスターM:おや。 ですが、たやすく弾かれてしまった。 これは…… 老李:そうよ。それ。 舞花:あ……あ…… 老李:追い詰められればお主とて牙を 儂も同じよ。非難される 舞花:お願いします……お願い……こんなこと……やめて……。 老李:安心せい。毒で苦しめるのではなく、即座に死ぬるように斬る。 ……恨むなら世界を…… 舞花:バアルさん! バアル:戻れ、アイムール! *舞花が投げたアイムールがバアルの声に応えて飛び、 老李の頭を強打する* 老李:か…… 舞花:お爺さん! ミスターM:ほう。アイムールの力とは、 的確に 余化: ミスターM:おやおや。余化殿は実体をなくされたようですね。 契約者が死んでしまえば、もう…… バアル:後は魔剣たる 余化:がああああああ!!! *余化の手にある 舞花:バアルさん! お爺さんが……お爺さんが! バアル:とうに事切れておる。 舞花:何で……こんなこと……このお爺さんも、被害者だよ……。 ごめんなさい……ごめんなさい……。 バアル:そなたが悔やむことはない。 すべては されど魔剣をひとつ砕いたことでこの世界を守るという目的には 近づいたのじゃ。 その者も巻き込まれただけ。 そなたも、な。 舞花:世界を守る……この世界って、守るようなものなのかな……。 バアル:そなたは、この世界に大切な人がおらぬのか? 舞花:え? いるよ! 当たり前じゃない! バアル:世界を守ることは、その者を守ることにもなる。 痛みは誰かが負わねばならぬ。 その老人を殺したは そなたが 舞花:……割り切れないよ、そんな風に。 バアル:ならば、割り切らぬでよい。 ミスター:お嬢さん方、早くこの場を去りなさい。 舞花:え!? ミスター:彼の あなた方はお帰りになるとよろしい。 人の目については困るでしょう? バアル:貴様は…… ミスター:さあ、早く。 舞花:は、はい! *ふたり去っていく。バアルは一度だけミスターを振り返り、睨む* ミスター:おお、怖い怖い。 ……良い戦いでしたよ。 あそこから逆転するとは意外でしたが。 残念でしたね、 あなたの執念も、無邪気な女の子を前に油断してしまう程度 だったのですかね? 安らかにお休みください。 今後は……あのふたりに期待しましょう。 次もまた、楽しませてくださいね。 ふふ、ふふふふふ……。 劇終 こちらの台本は コンピレーション企画「Arc Jihad(アークジハード)」にて 書かせて頂いたものです。 他の参加者様の台本はこちらへ |